第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
そうなのだ。ニーナが自ら毒を飲んで倒れたなら──ノアはそうだと確信しているが──動機は何だろう。
アリシアを陥れたとして、果たしてニーナに何の得があるのだろうか。むしろリスクが高すぎやしないか。
死にはしないとはいえ、ニーナは二日ほど目を覚まさなかったというし、貴族の令嬢を陥れるようなことをして、露見したらただでは済まない。
「彼女はヒロインなのよ。そんなことするはずないわ。わざわざそんなことをしなくたってハッピーエンドが待っているんだし」
アリシアがポツリと独りごちた。
(女主人公?ハッピーエンド?)
断片的にしか聞き取れなかったが、突然ロマンス小説の話でもはじめたのだろうか。
何にせよ、アリシアが精神的に疲れきっているのは間違いない。
外に出るのが好きなアリシアが、ここ数日ずっと屋敷にこもりっぱなし。心の支えであったハーブティーには恐怖心を抱いてしまう。
ノアは胸の前でグッと拳を握った。
「お嬢様。わたくしにお任せください」
「え?」
「お嬢様が心からの笑顔でいられる環境をつくる。それが、わたくしの仕事であり、貴女様への恩返しです」
困惑したようなアリシアに、ノアは力強く微笑みかけた。