第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 ミハイルは銀縁のメガネを押上げ、重ねて聞いた。



「それから失礼を承知で申し上げますが、ノアさん。そもそも貴女は何故、無条件にアリシア様を信じていらっしゃるのですか?」


「アリシア様がそのようなことをする方ではないからです」


「どうして言い切れるのですか?貴女の知らないところで、アリシア様はニーナのことをひどく恨んでいたかもしれませんよ?」


「まあ、それはないとは言えません。わたくしとて、お嬢様の全てを知っているわけではありませんから」



 ウェイターが紅茶を運んできた。ノアはありがとうございます、と微笑んでから、一口だけ紅茶を飲んだ。

 アリシアが淹れたものの方がずっと美味しい。だがまあ、口の中を潤すだけならば十分だ。

 軽く息をついてから、再び口を開いた。



「アリシアお嬢様は、命を大切にしない人間が、何よりもお嫌いなのです」



 あの日、本気で怒ったアリシアの声と気迫が、鮮明に蘇る。



『貴女は健康な身体に生まれて、飢え死にすることもなく生きている!いったい何が不満なの!?生きることが許される限り、どんなに泥臭くて見苦しい生き方でも、生き続ければ良いじゃない!』



 声を荒らげ、目に涙を溜めながら訴える彼女を、ノアは美しいと思った。


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