第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 リアンノーズ邸の前。最後に訪れたのは4年ほど前だったはずだが、無意識に覚えのある場所をたどっていたらしい。


 ノアはダメもとでその戸を叩いた。

 驚いたことに、当主のオリヴィオは、ノアの顔を覚えていた。
 事情を知ったオリヴィオは、しばらくの間ノアを泊めるよう計らってくれた。


 そこで、アリシアと再会した。


 彼女を見て驚いた。記憶にあった彼女の印象とまるで異なっている。

 美しい容姿はそのままだが、まとっている雰囲気が明るく、柔らかい。

 突然訪れたノアに、彼女は心から嬉しそうにミントのハーブティーを振舞ってくれたのを覚えている。



 リアンノーズ家の人間は皆親切で、ノアにとても良くしてくれた。だが、親切にされるほどに、惨めな気分が大きくなっていった。

 この家族は仲が良く、親切で幸せそうなのに、自分はといえば実の父親にあっさりと売られたのだ。


 2、3日して、そんな惨めさに耐えきれなくなり逃げ出した。


 雨が降りしきっていた。あの家の人は心配するだろうが、所詮は成り行きで世話をした他人だ。居なくなって困ることはないだろう。


 そう思ってあてもなく歩いていると、突然数人の男に囲まれた。

 その顔には見覚えがあった。例の裕福な老人が金で雇った男たち。ノアを連れ戻さなければ報酬金が貰えないために必死なのだろう。


< 202 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop