第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
リアンノーズ邸の前。最後に訪れたのは4年ほど前だったはずだが、無意識に覚えのある場所をたどっていたらしい。
ノアはダメもとでその戸を叩いた。
驚いたことに、当主のオリヴィオは、ノアの顔を覚えていた。
事情を知ったオリヴィオは、しばらくの間ノアを泊めるよう計らってくれた。
そこで、アリシアと再会した。
彼女を見て驚いた。記憶にあった彼女の印象とまるで異なっている。
美しい容姿はそのままだが、まとっている雰囲気が明るく、柔らかい。
突然訪れたノアに、彼女は心から嬉しそうにミントのハーブティーを振舞ってくれたのを覚えている。
リアンノーズ家の人間は皆親切で、ノアにとても良くしてくれた。だが、親切にされるほどに、惨めな気分が大きくなっていった。
この家族は仲が良く、親切で幸せそうなのに、自分はといえば実の父親にあっさりと売られたのだ。
2、3日して、そんな惨めさに耐えきれなくなり逃げ出した。
雨が降りしきっていた。あの家の人は心配するだろうが、所詮は成り行きで世話をした他人だ。居なくなって困ることはないだろう。
そう思ってあてもなく歩いていると、突然数人の男に囲まれた。
その顔には見覚えがあった。例の裕福な老人が金で雇った男たち。ノアを連れ戻さなければ報酬金が貰えないために必死なのだろう。