第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
こちらは大して力もない一人の女。向こうは屈強な男が何人も。結果は見えていた。
しかしノアとて、身一つで逃げ出した末路がこのような状況であることくらい想定していた。
「わたくしはあなた達の主の元へは行きません」
取り囲む男たちに対し、ノアははっきりと言った。
そして、懐に忍ばせていたナイフを取り出し──自分の喉元に突きつけた。リアンノーズ邸から抜け出す際に、厨房に忍び込み拝借したものだ。
連れ戻され、売られた先で一生を終えるようなことは避けたい。それならば、この場で死んだ方がマシだ。
「あなた達の主に伝言してちょうだい。“わたくしは死んだから貴方の所へは行けない。払った金は父に返すよう取り立ててやって”……ついでに、父にも言ってくれる?“あんたの娘は、あんたに絶望して死んだよ”ってね」
そのまま力を込めて、ナイフを突き刺そうとした瞬間だった。
「やめなさいノアさん!」
突然響いたその声に、ノアは思わず手を止めた。
そこには、雨に濡れることもいとわず、ワンピースのすそを翻しながは走るアリシアの姿があった。
体格のいい男たちを怯みもせず押しのけ、ノアの前へと立った。
肩で息をしているアリシアに呆気にとられているうちに、その彼女にナイフを取り上げられてしまった。