第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


「何をしてるのよ馬鹿っ!ほら、帰るわよ」


「あ、アリシア……様。帰るってどこに……?」


「うちに決まっているじゃない」



 アリシアは、呆れとも安堵ともつかない深い息を吐き、それから微笑んだ。

 さも当たり前のように言われたノアは、少し動揺した。



「わたくしに帰る場所なんてありません……!」


「何を」


「……嫌なんです。少し前までは、豊かでなくても、家族がいて幸せだった。家族を当たり前に信頼していた……!なのに、あの人たちはわたくしを愛してなんかいなかったの!」



 溜まっていた言葉を、感情と共に吐き出した。

 幼子のように泣き叫ぶのは惨めだろうと思ったが、既に十分惨めなのだから気にすることはあるまい。



「あんなにすんなり娘を売る先が決まると思う?あの人は前々から考えていたのよ。わたくしを物のように売ってお金を得て、自分たちが少しでも楽に生活することを」


「ノアさん……」


「アリシア様、貴女の家は幸せそうだわ。だけどわたくしも、家が潰されるまで貴女たち家族とそう変わらなかった。でも裏切られた。生きていく(すべ)だって知らない小娘が、そんな残酷な事実を背負って、生きていくなんて、できっこない」



 アリシアは若干困惑しながらも、口を挟まず話を聞く姿勢を見せていた。ノアがあの言葉を口にするまでは。


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