第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 彼女は声をひそめることを忘れ、少し目を輝かせながら続ける。



「婚約破棄も時間の問題かもしれないわ!」


「夜会のときは仲睦まじい様子でしたのに……。ならこのお茶会は、新しい妃候補を探す狙いがあるのかしら?」


「きっとそうだわ。あちこちでそんな話を聞いたもの」


「それなら、私たちにもまだチャンスがあるのかもしれないのね!」



 盛り上がる彼女たちの後ろ辺りでお茶菓子を物色していたアリシアは、その会話に思わず苦笑いする。



(うーん……全部聞こえてるんだけどなあ。わたし、そんなに影が薄いのかしら)



 皆の憧れ第一王子の婚約者という立場上、同年代の令嬢に良い噂をされていないことは覚悟していたが、実際に聞くと少しヘコむ。


 話が聞こえていたことが彼女らにバレると気まずくなりそうなので、アリシアはその場をそっと離れる。



(ていうか、毒草の実験に王宮のメイドを使ったって……いったいどこの狂科学者(マッドサイエンティスト)よ)



 ずいぶんと誤解と偏見に満ちた噂が広まっているような気がする。

 アリシアのことを直接知らない人たちの中で、いったいどのような人物像が思い浮かべられているのだろう。


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