第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



(まあ良い、遅くなってしまったのは私だ。目を覚ますまで待っていよう)



 イルヴィスはそう思い、アリシアの寝顔をちらりと見た。

 スヤスヤと無防備に寝息を立てる彼女に思わず手を伸ばす。

 ──が、その手が頬に触れる直前に、アリシアは「ん……」と小さく声を漏らし、頭を少し動かした。


 起こしてしまったのか、と一瞬焦ったが、彼女は何事もなくまた寝息を立てていた。

 それどころか、動かした頭をイルヴィスの肩に預けるような形でもたれかかってくる。



(やれやれ……。どうやら理性が試されているらしい)



 イルヴィスは苦笑気味に息を吐いた。


 引っ込めかけた手で、はらりと垂れるターコイズブルーの髪をそっと撫でてみる。

 美しい色の髪だと見るたびに思う。


 その髪が手からサラリとこぼれ落ちるのと同時に、ふんわりとラベンダーの香りがする。その香りに、自然と笑みが浮かんだ。


 アリシアからはいつもこの優しい香りがする。


 夜会のときも、茶会という名の見合いのときも、それから──初めて出会ったときも。


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