第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



 4年前。当時16のイルヴィスは、時間を見つけては忍んで街を見て回るのが日課だった。

 学園での面白みのない授業や面倒な人間関係に飽き飽きしており、隙を見てこっそり抜け出していたのだ。


 街の活気ある姿を見るのは楽しいし、城に籠って教育を受けているだけではわからなかった色々なものが見えてくる。


 ……とはいえ、こうもしょっちゅう街へ出ていたのでは、初めは新鮮に感じていたものもさすがに見慣れてくるものである。だから新しい景色を求め、その日はたまたまいつもの大通りから一本外れた道に入ってみた。

 だが特に何か面白いものがあるというわけでもなく、引き返そうかと思い始めたときだった。


 視界の端に、申し訳なさそうにたたずむ看板が映った。


【Cafe:Lily】

 
 このような人通りの少ない場所にカフェがあるのは少々意外だ。ちょうど喉も渇いているし、休んでいくのも悪くない。


 重たそうな戸を押すと、カランカランと小気味良いベルの音が響いた。


 店内には10席少しの席があり、客はまばらに座っている。立地条件の良いとは言えない場所で、混雑するような時間帯でもないのに客が入っているところをみると、きちんと常連客がついているのだろう。


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