第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
紫の花を咲かせた、爽やかな香りのヒソップにそっと手を伸ばした時、後ろで扉が開く音がした。
振り返ると、不審そうに眉を寄せる青年の姿があった。
「……どちら様でしょうか」
青年はそう尋ねながら、かけている細い銀縁のメガネを指でクイっと押し上げる。かなり神経質そうな雰囲気だ。
アリシアは慌てて立ち上がり、スカートの裾を軽く払って姿勢を正す。
「リアンノーズ伯爵家の三女、アリシア・リアンノーズと申します」
「ああ……イルヴィス王子の」
アリシアが名乗ったのを聞いて、青年は少し表情を和らげた。
「失礼しました。僕はこの庭の管理をしている、ミハイル・テニエです。以後お見知りおきを」
ミハイルは恭しく頭を下げる。
(ミハイル……)
アリシアはその名前を聞いて、心がざわついた。ミハイル・テニエは、あの漫画の登場人物だ。
主人公と同じで、庶民だが高い能力を買われて王宮の庭師として働く青年。頭が良く冷静で、主人公や時には王子たちにも的確なアドバイスを与える存在。
(主人公とは良き友人関係って感じだったかしら……となると、あまり彼と接点を持つと、主人公とのエンカウント率が上がりそうね)