第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



 12歳までのアリシア・リアンノーズは、どこか可愛げのない子どもだった。


 身分に恵まれ、容姿に恵まれ、その上家族にも恵まれていた。

 若くて美しい母に、落ち着きのある優しい父。二人の姉とは母親が違うが、年の離れた彼女らは、アリシアのことを可愛がってくれた。


 そんな恵まれた環境に身を置きながら、アリシアはいつも退屈していた。正確に言えば、この世は退屈なものであると思い込んでいた。

 勉学をすればよくできるし、音楽に関しても同様。ただ、何をするにしても飛び抜けた才能が発揮されることは無かった。


 きっと自分も姉たちのように、どこかの有力家に嫁いで、何事もなく平和で退屈に人生を終えるのだろう。漠然とそんな風に思いながら日々を送っていた。




 ──それが変わったのは、12歳の誕生日を迎えてすぐのことだった。


 アリシアは酷い熱を出し、5日間ほど寝込んだ。


 心配する家族の声に、甲斐甲斐しく世話をする使用人たち。医者の話し声と独特な消毒用の酒精(アルコール)の匂い。

 身体は熱くて苦しいし、一方で寒くて寂しい。


 ここまで身体が辛いのは人生で初めてだと思ったが、何故だかこの感覚を知っているような気がした。



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