第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
アリシアは適当に誤魔化しかけてふと思いとどまる。
「あの、デュラン殿下が平民のメイドを雇い入れたという話は本当ですか?」
「ああ、確かニーナとかいう名だったか?」
ごくりと唾を飲み込む。ニーナ。それは紛れもなく主人公の名だ。
「髪が黒くて薄気味悪いだとか、平民を王子直属のメイドにするなど何事だとか騒ぐ者も多くてな。まあ、私は能力が高く、自分の立場を弁えている人間ならば特に反対はしないが」
イルヴィス自身はニーナというメイドにはさして興味はないらしく、それ以上の情報は話さなかった。
「貴女も彼女が王宮で働くのをあまり良く思わないか?」
「いえ、そんなことは……庭師のミハイルさんだって平民だとおっしゃってましたし、わたしも能力の高い人が相応の仕事を与えられるのは良いことだと思います。
……それに、わたしも髪の色は変わってるし」
軽く髪を撫でながら答えると、イルヴィスはアリシアの髪にそっと手を伸ばした。
「貴女の髪は変わった色ではあるが、とても綺麗だ」
「あ、りがとうございます」
前世の記憶を取り戻したアリシアは自分の髪の色を気に入っている。だが、こうして改めて褒められるとすごく嬉しい。
やはり、彼が噂や漫画のような冷酷な人物だとは思えない。