第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
アリシアのことを「アリアさん」と呼んだその女性は、へにゃっとした笑みを浮かべる。
アリシアよりいくつか年上で、柔らかそうな髪の毛を後ろでまとめた、タレ目の女性。全体的にふんわりとした印象がある。
「アリアさんってば、最近全然来ないから寂しかったんですよ?」
「ごめんなさいリリーさん。ちょっと色々とあって」
彼女の名前はリリー。両親から受け継いだ、自分と同じ名を持つこのカフェのオーナーだ。
そして、ハーブティーや紅茶の淹れ方を教えてくれた、いわばおアリシアの師でもある。
「そうでしたか〜。あ、『アリシア様』は王子様と結婚したんですもんね〜おめでとうございます!」
「ええっと、正確には婚約が決まっただけで、結婚はまだです。あと、わたしはアリアですので、わたしにお祝いの言葉を言っても意味ないですよ」
「はいは〜い。分かってま〜す」
普段リリーはアリシアのことを、お忍び用の名前である「アリア」と呼ぶが、何故か正体にも気付いている。
アリシアとしては、ずっと平民らしく見えるよう振舞ってきたはずなのに、このふんわりしたオーナーに気付かれたとあって、多少複雑な気持ちではあった。