身代わりの姫
「ここは、王家の保養所、だな。
だれも来ないし、マットとシーラも夕飯の支度をすると帰る」
「温泉、気持ち良いわ」
そうか、と照れたように笑ったジルに、ドキリした。
「髪を……」
隣に来て、まとめていた髪を、下ろされた。
「濡れてしまうのに……」
そう言うと、桶で頭から温泉のお湯をかけられた。
「ちょっと……何するの?」
ハハハ、と笑って今度はいつの間にか石鹸を泡立て、優しく顔を洗ってくれる。
「鼻、スッキリしてるけど、小さいんだな。
目は、キレイな二重で大きいけど、顔が小さいから、触ると小ぶりだな」
そう言って、またお湯をかけられた。
「も、もう………」
ザバッとお湯を手でジルにかけた。
「ハハハ、元気になったか?
今日は悪かった。フルーには父上もさすがに怒って、大臣の息子と結婚させることになった。
それから、ガストンから昔のことを聞いたって?
怒ってるか?」
「いえ、別に。そういうこともあるだろうと思うけど、側近から聞くと事実だと分かっただけ」
「俺は、お前に港で会ってから、そういうことはしていない」
頷いた。
軽くキスをされて、温泉から上がっていった。
もう、着替えたかな、と思って小屋に戻るともうジルはいなかった。
着替えて外に出ると、馬の手綱をもって、ジルが待っていた。