身代わりの姫
温泉に入ると、後ろから抱きしめられて、巻いていた布を外された。
「あまり見ないでよ」
「ゆっくり温泉なんて、なかなか無いからな」
胸を、触られて落ち着かない。
ジルは素知らぬ顔で、首筋にキスをしたり、何か難しい顔で考えていたり、マイペースに自分の世界に浸っていた。
「そろそろ上せるわ、行きましょう?」
声を掛けると、そうだな、と呟いて立ち上がった。
木の家に戻り、置いてくれていたパンと野菜を食べて、荷物をまとめると、マットとシーラがやって来た。
「おはようございます。
お疲れは取れましたか?」
「あぁ、ありがとう。これを頼む」
「分かりました」
そう言って、マットが出ていった。
「何を頼んだの?」
「馬車の迎えを……今日は無理やり休みにしたから、明日からはまた仕事だな。
謁見と会談もある。
街に、寄って帰るか?」
「ええ………行ってみたい」
しばらくして迎えの馬車が来て、御者に何かを言い、馬車が動き出した。