身代わりの姫


馬車が止まり、ジルの手を握って降りると、兵士が並んでいた。


「ここは、街の駐屯地だ。いつも兵士がいる」

兵士に一礼をすると、全員が敬礼した。


そのまま歩いて駐屯地の門を出る時、少し離れて付いてくる二人の兵士がいることに気付いた。


「念の為の護衛だ、気にするな」

誰かがついてくることは仕方ない、と納得してジルに腕を絡めた。


街中は賑やかで、色々な店があった。


「何か欲しいのか?」

「いえ……賑やかで良いわね」

「………これはどうだ?」

立ち止まったジルが、ある店の前に並べられているキレイな小さな手鏡をジルが手に取っていた。


「キレイですわね」


「じゃ、これをくれ」

ジルが店主の男性にお金と一緒に手鏡を渡した。

「ありがとう御座います」

そう言って店主が奥に消えると、奥から子供が出てきた。

「おねえさん、これあげるよ」

何か細い物を差し出していた少年を見た。

「ん?なぁに?」

「鉛筆」

「ありがとう」

そう言って受け取った。

「お兄さんもあげる」

ジルは少年が差し出した鉛筆を受け取りながら言った。

「ありがとう、これどうしたんだい?」

「勉強しろって、いっぱい貰ったけど、あんまりしないから。
鉛筆が減ってたらいっぱい勉強したみたいに見えるでしょ?」


思わず、ジルと顔を見合わせて笑った。


「まあ、鉛筆のいらない勉強もあるからな、ちゃんとしろよ?」

ジルが男の子の頭を撫でると、ペロっと舌を出して店の奥に走っていった。

「知能犯だな」

「賢いわね」

店主が出てきて、包装された鏡を笑顔で受け取った。


「ありがとう御座いました」


店主の声に背を向けて、駐屯地へ戻った。


< 171 / 279 >

この作品をシェア

pagetop