身代わりの姫
「親心だと信じているが………どうしたい?」
ジルが手紙から顔を上げて、私を見て言った。
「………戻りません。事が起っても私はバルテモン国におります」
目を見て言った。
「帰った方が良くても……か?」
「帰った方が良い場合なんてないわ。
私は………王太子妃………です」
「俺は………ここにいてほしいが、危ない目には合ってほしくない。
一時避難しても、問題はない」
「嫌です。帰りませんわ。
ここに、置いてください」
「俺は、民の暮らしを守らなければならない。
お前の安全だけを、守ることはできない。
安全に生きていてほしいのだ
すでに北の一部の山に、侵入しているのだろう」
目を見開いた。
「侵入している、とは?」
「攻撃でもなく侵略でもない。
かえってやりにくい。
小さな村や町を攻めないのはありがたいが、北の山は未開拓のことも多い。
鉱物の山もある。何を攻めようとしているのか、分からない」
ちょっと考えて言った。
「王家だけを乗っ取るつもりですか。
王家が変われば、政治も変わる………
ビチリア王国………ですか?」
「なぜそれを………?
いや、そうだ。ビチリア王国だ」
ジルがフッと笑った。
「とにかく、私はバルテモン国に残ります。
シリルにも、そう伝えてください」
ジルがため息をついて、ちょっと笑って言った。
「………………分かった」