身代わりの姫
そこには、見たことのない、男の人が立っていた。
黒の軍服に金の肩章とたくさんの勲章を付け、小麦色に日焼けした肌に茶色い髪。
大きな二重の目に鷲鼻掛かった高い鼻、厚めの唇で大きく口を開けて笑う男の人が、馬車のドアを開けて私を見ていた。
「王女さま、こちらへ。話し合いもほぼ終わりました。
一緒にお茶を飲みませんか?」
手を貸そうと、差し出された手を、握って良いものか、迷った。
その人の後ろには、同じ黒の軍服の人が、2人。
その周りには、ダリアンの護衛隊と兵士が、その行動を止めようとするかのように、立っていたからだった。
「大丈夫ですよ、剣を振り上げたり、王女を取って食ったりしませんから。
最後にお茶くらい一緒でもいいですよね、ダリアン王子」
彼の後方に、やって来たダリアン王子が頷きながら困ったような笑顔を見せていた。
「リリア王女、私はバルテモン国第一王子、ジルベールと言います。
お手をどうぞ」
ふざけてるのか、馬鹿にしてるのか、ただの興味なのか、それでも仕方なく、その手を取った。
しっかりとエスコートしてくれるその手は、ジルベールの態度とは違って、紳士的なものに感じた。