たまには甘えて
二人きり
 去年に葉子(ようこ)と拓実(たくみ)は互いの想いを伝え、恋人同士になった。
 仕事が終わった後、デートをするために駅で待ち合わせをしていた。
 待ち合わせ時間になるまで時間に余裕があるから、近くの店に入ることにした。
 しかし店に入ろうとしたときに周囲がざわつき始めたので、足を止めて振り返ろうとすると、視界は真っ暗になった。驚いて後ろへ下がったときに何かを踏み、踏まれた人物は耳元で悲鳴を上げた。

「おい、痛いだろ」

 葉子が見えないように目隠しをしていたのは拓実で彼の手が離れると、視界が明るくなって目を細める。

「さっさと行くぞ」
「うん」

 葉子は足を縺れさせながら、拓実の後について行く。
 今日のデートの場所は大観覧車で、きっかけは一枚の写真だった。

「アルバムが見たい」
「いきなりだね・・・・・・」

 先日、拓実が葉子の家に遊びに来ていて、段ボール箱に入っているアルバムを部屋に運んだ。

「重かっただろ・・・・・・」
「平気・・・・・・」

 何冊も入っているので、運んでいる最中に足元がふらついた。
 小さい頃の葉子の写真がたくさん入っている一冊ずつ広げた。
 家族と遊園地に行った写真や遠足のときの写真、文化祭のときの写真などを見ていて、ある写真の存在を思い出し、机の中から取り出した。

「観覧車に乗った記念にか?」
「そう。懐かしいな」

 家族全員でピースをしている写真を見てから、拓実が葉子にその写真を返した。

「俺もここへ行きたい」
「買い物に?」
「違う」

 写真の場所は観覧車以外に買い物や飲食することができる店が多数ある。
 しかし、拓実にとって重要ではない。葉子とまだ二人で行ったことがない場所へ行くことが重要。

「葉子と観覧車に乗るためだ。来月空いているって言っていたよな? 行かないか?」
「いいよ。行こう」
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