たまには甘えて
 約束の日、天気が良くて、気分も良い。
 近くにある店に入ろうとする拓実の腕を引き、葉子は歩き出した。
 観覧車の前で行列ができているだろうなと想像していた。
 しかし、観覧車に乗っている人達は少なく、待つ必要がこれっぽっちもない。
 二人で観覧車に乗り、互いの顔を見ていると、拓実が葉子の隣へ移動して座った。

「狭くなる」
「俺、高いとこが苦手で・・・・・・」

 拓実は外の景色を眺めることができるエレベーターの中でも平然としている。

「嘘吐き」
「そんな端に座るなよ。落ちるぞ?」
「落ちない!」

 観覧車の一周は少し長く感じた。
 ゴンドラの外を出たときには三時になっていた。
 ちょうど喉が渇いていたので、近くのカフェに入り、冷たいもので満たすことにした。
 ティーフロートを飲んでいるときの葉子の笑顔がニコニコしている。

「お前の顔を見ているのは飽きないな」

 コーヒーを一口飲んで、お腹が空いたことを呟いた。
 すぐにメニューを渡そうとしたとき、拓実は葉子の手を止めた。

「そうじゃない」
「ん?」
「葉子が可愛いから、思わず食べたくなる」
「なっ!」

 あちこちに人がいるのに、そんなことを気にせずにこんな恥ずかしいことを平気で言う。
 こっちは心臓が爆発してしまいそうになる。

「またそうやってからかって・・・・・・」
「俺はいつだって真剣だ」

 よく見ると真剣な顔になっているから、余計に顔を赤らめる。

「わ、私を食べたら、腹を壊してしまうよ?」
「そしたら、お前が俺の世話をすればいいだけの話だ」
「そこまで私を食べたいの・・・・・・」

 にっこりと笑顔になる拓実を見ながら、自分達の会話がとんでもないことに気づく。

「好きな女の子がいたら、欲が出るんだ」
「わかった、もうわかった!」
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