たまには甘えて
 店を出た後は普段あまり行かないようなところを二人で歩き回った。
 数多くのアパレルショップがあり、鏡の前に立って気になった服を見る。

「なぁ、この辺の服を全部試着室で着たらどうだ?」
「・・・・・・試着できるのは三着までだよ」

 試着室の前に貼り紙を貼ってあるのに、拓実はそれに全く気づいていなかった。

「・・・・・・後で靴も見るか」
「欲しい靴でもあるの?」
「そうじゃない」

 首を横に振り、自分用でないことを言う。

「前に靴を欲しがっていただろ?」
「それはお父さんに買ってもらったからいいんだ」

 それを聞いた拓実はがっかりした。

「楽しみが一つ減ったな・・・・・・」
「オーバーな・・・・・・」
「オーバーじゃない」

 二着の服を持って店員に試着したいことを伝えると、試着室まで案内された。
 数分かけて服を着ると、着心地が良く、別の服を眺めている拓実を手招きして呼んだ。

「どうかな?」
「似合っているな。ちょっと後ろ向いてみろ」
「うん」

 あらゆる角度から観察されたので照れていた。

「いいな、決まりな」
「じゃあ、また着替えるから待っていて」

 二着の服を見てもらい、服を着替えてから靴を履いた。
 拓実が持っていた洋服を取って、それを店員に渡し、レジで金を支払ってくれた。
 二着の服を白い袋に入れてもらって店員から受け取り、その店から出た。

「返さなくていい」
「でも・・・・・・」
「気にするな」

 財布を鞄から出そうとすると、やんわりと制した。

「今度会うときに着ろよ。楽しみにしている」
「ありがとう」
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