たまには甘えて
 次に拓実と会うことができたのは三ヶ月後。
 互いに仕事が忙しく、なかなか時間が合わなかった。
 葉子は以前買ってもらった洋服を着ていて、拓実と自分の分の夜ご飯を作っている。
 甘えてくる拓実はまるで猫のようで、自分は猫と恋愛関係になったのかと思ってしまった。
 すると、拓実のお腹が空腹を知らせ、後ろから葉子の腹をポンポンと叩いてくる。

「今の音は私じゃない」
「じゃあ誰だ?」

 拓実が白々しく惚けるので、葉子は彼の耳元で怒鳴った。

「拓実しかいない!」
「まだかかるか?」
「できたよ」

 作った料理を食べる前に手を合わせていただきますの挨拶をしてから、ちくわの天ぷらを最初に食べた。
 スーパーで抹茶塩が売られていたので、気紛れに拓実が買った。
 天ぷらに使っていて、新たな発見ができて満足している。抹茶塩をちくわの天ぷらにかけていると、彼がくすっと笑った。
 ついこの間まで揚げ物には醤油をかけて食べていたのに、それが一変した。

「美味しかった」
「また作ってほしいものがあったら言ってね」
「あぁ」

 食事を終えてのんびりと寛いでいる拓実にお茶を差し出そうと準備をしていた。

「そろそろ帰るな」
「帰る?」

 もう少し一緒にいられると思っていたのに、彼は椅子から立ち上がった。
 皿洗いをしていた手を止めて、玄関へ向かった。

「遅い時間なのに悪かったな」
「ううん、気をつけてね」

 慌てて笑顔を作って、手を振った。

「じゃあな。おやすみ」
「おやすみ」

 そっと玄関のドアを閉めて、溜息を吐いた。
 キッチンに戻って、皿洗いを再開した。カチャカチャと皿の音だけが響いていた。
 全ての食器を洗い終えてテレビを観ているとき、家のチャイムの音が鳴った。
 こんな夜遅くに誰が来たのだろう。
 出なくてもいいかなと考えたものの、気になって玄関に向かった。
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