冷徹社長の容赦ないご愛執
 社長がいなくなった途端に、心細さが押し寄せてくる。

 妹である詩織の前でも、……いや、詩織の前だからこそ、とても居づらさを感じるのかもしれない。


「すっかり女将さんだね。着物もよく似合ってる。それおばあちゃんのだよね、見たことある」


 沈黙にならないように、当たり障りのない話題を作った笑みに添えた。


「そうだよ。でも着物の着こなしはお姉ちゃんのほうが上手だと思う。まだやってる? 踊り」

「うん、ときどきね」


 会話をぎこちなく感じているのはきっと私だけで、二年も帰らなかった姉に、妹は不満のひとつも見せない。

 大和が言うように、ここにいる人達はみんな私が帰ってきたとしても、きっと笑顔で迎え入れてくれるんだろう。


「大和が、さっき変なこと言ってたでしょ。ごめんね」


 笑顔を見せてくれていた表情を陰らせ、詩織は申し訳なさそうに声のトーンを落とした。


「ほら、あいつって、単純で妙に正義感強くて、特にお姉ちゃんのことになると、すぐ頭に血が上るっていうか……」


 少し気落ちしすぎじゃないかと思う詩織の表情に、わざと声を明るくして続ける。
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