冷徹社長の容赦ないご愛執
 実家に戻った記憶はなく、しかも、目の前にいる浴衣姿の社長が、私に旅館に泊まったことを示していた。


「わ、私……っ」

「心配するな、なにもしていない」


 寝そべったまま上目遣いに私を見る切れ長の瞳。

 パニックになりそうな頭に過ぎった大人の男女の色事は、どうやらまだ私の身には起こっていないらしかった。

 ほっとしたような、ちょっと残念だったような気持ちは呆れたため息にかき消される。


「俺が語っている最中にいつの間にか意識飛ばしやがって。起こしても起きないし、よくもまあお前に惚れてる男の前で堂々と眠りこけてくれたな」


 むくりと起き上がり、ベッドのヘッドボードにバンッと手をつく社長は、私をそこに追い込む。


「すっ、すみません……っ」

「俺の鋼の自制心に全力で感謝しろ」


 朝日を背に陰る社長のぎらりとした瞳と、浴衣の隙間から覗く胸板のとんでもない色気に心臓がばくばくと鼓動を早める。


「だが、俺に惚れたときは覚悟しておけ。そのときは、息もできないくらいめちゃくちゃに犯してやるから」


 そう言われて、社長が口にした“自制心”がなにに対するものなのかを瞬時に理解し、全身から噴き出した冷や汗にぶるりと身を震わせた。



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