冷徹社長の容赦ないご愛執
 社長に触れられることを期待していたのだと気づいてしまって、かっと火照る頬を隠すようにうつむく。

 小さなため息が上から降ってきて、社長の期待に応えられなかったのだと受け取る胸がかすかにピリッと痛んだ。

 なにも言わずに私をかわし、社長は遊歩道のほうへと向かおうとする。

 それに続こうとすると、行く先を塞ぐように向き直ってきた足。

 そこから視線を上に辿らせ、顔を上げた。

 まばたく間もなく、長い指に顎を掬われる。

 社長……?

 どうしたのかと尋ねようとした口は、やわらかなものに塞がれて声を出せなかった。

 陰っていた社長の表情が、不意に明るさを取り戻す。


「悪いな。そんなかわいい顔するから、どうしても欲しくなった」


 優しく目を細めて私を見る社長がどうして謝ったのか、すぐには理解できずに首をかしげた。

 ただじんわりと唇に残るやわらかな感触に、火照りを感じる。
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