冷徹社長の容赦ないご愛執
「行こうか、海中展望」


 きょとんとする私の手を拾って歩き出す社長を、斜め後ろから見上げる。

 温かくて大きな手のひらが、くすぐったい熱を体中にくべる。

 口元にも集まってくる熱を感じ、ようやく自分が今キスをされたことに気がついた。

 たちまちのうちに、全身にかっとたぎるような熱がほとばしる。

 生まれて初めてのキスはほんの一瞬のことだったのに、やわらかな感触はしっかりと唇に残っている。

 間近にあった社長の顔が頭に焼き付いて離れない。

 その彼は私を振り返ることなく、のんびりと手を引いて桟橋を渡っていく。

 社長は今、どんな顔をしているんだろう。

 世の中を達観したような社長が、まさか私のように顔を赤らめているとは思えないけれど。
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