冷徹社長の容赦ないご愛執
 桟橋を渡りきったところで、展望室から出てきた一組のカップルとすれ違った。

 肩を寄せ合い楽しそうに話しながら去っていく彼らのように、手を繋ぐ私たちも同じような恋人同士に見えるんだろうか。

 どきどきと脈を打つ胸は、周りからの視線にもほんの少しだけ高揚する。

 夢に見るほどまではないけれど、いつか私にもこうやって恋人と呼べるような人と手を繋ぐ日が来るんだろうと、ぼんやりと思い描くことはあった。

 本やテレビの中でしか想像できなかったときめきが、まさに今自分の身に降りかかっていて、心がふわふわと浮かんでいるようだ。


 社長に手を引かれたまま短い螺旋階段を降りたところは、外観の期待を裏切らない丸い小部屋になっていた。

 薄暗いそこは、子どもの頃に来たときよりもずっと狭く感じた。

 展望室の壁にはいたるところに魚の写真と説明が飾られている。

 潜水艦のように丸くくり貫かれた窓には、海面からの日差しが優しく降り注いでいた。
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