冷徹社長の容赦ないご愛執
 空港に着いてもなお、片手にふたり分の荷物を持つ彼は、私の手を引いてくれる。

 半歩分だけ前を行く彼の頼もしさに、他の誰にも感じたことのない気持ちが湧き上がってくるのを感じた。

 到着した空港の手荷物受取所で荷物を待つ間も、自然と社長に寄り添うようにそばに立つ。

 こんなところ、同じ会社の社員に見られでもしたら、大変な騒ぎになってしまうに違いない。

 社長の手のぬくもりがだいぶ私に馴染んできたころ、ようやく冷静さを取り戻しつつある頭が、現実的なことを考えられるようになってきた。

 仕事のための九州出張だったし、やましいことはなかったはずなのに、昨夜の社長の一言から状況が一変してしまった。

 いや、状況というより、心境だ。

 しかも、このあと社長が住む家を探しに行くことになっていて、そのうえ社長は私も一緒にそこに住まわせようとしている。

 それが会社にバレてしまったら、それこそ大事件とばかりの騒動になってしまうことが予想できる。
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