冷徹社長の容赦ないご愛執
 どきっと大袈裟に跳ね上がる心臓。

 寒空の下待たせてはいけないと、慌てて壁のモニターへと駆け寄った。

 「はい」と応答すると、小さな四角の画面の中でも圧倒的な存在感を放つ人がそこに立っていた。


『お待たせ』

「今開けます」


 パタパタとスリッパを鳴らして短い廊下を進む。

 小走りの足音が、小刻みな鼓動と同調しているようだ。

 施錠を解き扉を押し開いた途端に、ドアノブに手をかけた私は前のめりに倒れ込む。

 温まった室内の空気と入れ替わりに入ってくる冷気の中。

 まばたきをする間に、私は真っ黒なコートに包み込まれた。


「犬っころみたいだな、パタパタ駆けてきて。そんなに嬉しかったか?」


 頬に触れる温かさと社長の匂いにほっと安心して、言われたようにクーンとでも鳴いてしまいそう。

 見えないところでがちゃっと扉が閉まるなり、大きな手のひらに上を向かされる。

 私を待ち受けていたのは、やんわりと細められた切れ長の瞳と、ほんの少しだけひんやりとした社長のやわらかな唇だった。
< 273 / 337 >

この作品をシェア

pagetop