冷徹社長の容赦ないご愛執
 せっかく思いとどまってくれた社長の鋼の理性を、その一言がたやすく取っ払ってしまうことはわかっていた。

 十二畳しかない部屋に舞う私の女の声が、さらに彼をあおることも本能が察していた。

 きっと遅からずこうなることは、自分でもわかっていたのかもしれない。

 翻訳機械の私のことを遠い国から見ていてくれて、私だからと秘書に指名してくれた社長に、心が惹きつけられないわけがなかったんだと、今さらながらに思う。

 自分を必要としてくれる人から『好きだ』なんて言われて、簡単に落ちる安い女だと思われるだろうか。

 社長をひとりの男性として意識したのは、もちろん告白をされた瞬間からだった。

 でも、私はたぶんそれ以前から、彼のことは特別な位置に意識していたのだ。

 そうじゃなきゃ、社長に他に大切な人がいたとしても、それでも構わないなんて強い想いをこんなに短期間で膨らませることなんてできなかったと思うもの。
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