冷徹社長の容赦ないご愛執
*


『やあ、サオリ』


 今朝の社長とは違うイントネーションで呼ばれた名前に、とてつもない罪悪感を抱いて顔を上げた。

 秘書室へ向かうエレベーターが、一階下のフロアで止まり、出社早々そこで乗り込んできたのは、私の心臓に妙な緊張感を与えるルイさんだった。


『お、おはようございます、室長』


 奇しくも、出社時間帯にもかわらず、狭い室内はふたりきり。

 昨夜社長から聞いたルイさんの想いと、今朝まで彼と甘い時間を過ごしていたことが、目の前の金髪の天使から顔をうつむかせた。


『昨夜、ユウセイが帰ってこなかったんだ。サオリのところに行くって出ていってから』


 早速、昨夜社長が私のところにいたことを怒られるのかと思ったけれど、ルイさんが私に向けた英語は思いのほかやさしいものだった。


『サオリ、心配していたんだ君のこと。君がもうユウセイから抜け出せないような関係になってしまっているんじゃないかって』


 私を気づかってくれている雰囲気に顔を上げると、ルイさんは私を狭い個室の壁際に追いつめ、とんとそこに手をついた。
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