冷徹社長の容赦ないご愛執
 肥前商事の元社長、現経営戦略室の浅田室長を筆頭にした役員数名は、緊張の面持ちで白い石畳の上に整列している。

 お腹を狸のように抱えた浅田室長の一歩後ろに控える私は、いつもはゆるっとまとめている黒髪をきちんとまとめ上げ、黒のパンプスのかかとを揃えてしゃんと背筋を伸ばす。

 社屋前のロータリーに入ってくる黒塗りの高級外車を見るなり、しっかり合わせたブラウスのボタンを弾き飛ばさんばかりの心臓を堪えるのに必死だった。

 この倒れそうな緊張感も当然のこと。

 ロータリーに横付けされたハイヤーの後部座席から、今まさに降りてこようとしているのは、今日からうちの社の総指揮を取ることになる、“あの”新社長だ。


 白手袋を穿いた運転手が押さえるドアから、きちんと磨き上げられた革靴が固い音を立てて地に足を付ける。

 すらりとした長い脚によって、屈めていた躯体が堂々と陽の下に晒された。


「お疲れ様でございます!」


 役員のおじ様方が声を揃えて頭を下げる。

 その向こうに見えた長身は、陽の光をもはねつけるかのようなオーラを全身から放っていた。
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