占いガール
「いらっしゃいませ」
今日もバーは仕事帰りの人で賑わってる。
カウンターには、常連の二人組の女性客と、カップルが三組。
慧はテーブル席に注文を聞きに行ってる。
俺達以外に店長と男性スタッフが3名、それぞれが仕事をこなしてる。
雰囲気のある薄暗い照明に、今時の曲の掛かった有線。
大人がこの場所に出会いと安らぎを求めて集まってくる。
「ねぇねぇ、倫君」
「はい。なんですか」
近くのビルに勤めてるOLに、笑顔で振り返る。
南ちゃんって言うこの彼女とは、一度だけ遊んだ事がある。
お互いにその場かぎりの関係だと割り切ったはずなのに、その後もやたらと誘ってくるんだよね。
「仕事終わりに遊びにいかない?」
美味しいものおごるわよと妖艶に微笑む彼女に、
「すみません。もうそう言うの止めたんですよね」
と眉を下げた。
その途端に、彼女の顔色が変わる。
「えっ?」
千尋ちゃんに出会うまでは、のらりくらりと交わしていた。
でも、今はハッキリと伝えさせてもらう。
「えぇ~ご飯ぐらい良いじゃない」
彼女の隣にいた同僚の望絵さんが言う。
「気もないのに、そう言うのダメだって気付いたんですよね」
ハハハと笑ったら、
「・・・まさか、本命の彼女でも出来たんじゃないの?」
と南ちゃんが冗談ぽく聞いてきた。
目が笑ってなくて怖いんだけど。
「まだ彼女じゃないですけどね。本命なのは確かです」
そう言いながら千尋ちゃんの顔を思い出す。
あぁ、癒される。
「フフフ、良い恋してるのね」
真弓さんはニヤニヤ俺を見た。
「そうですね。大切な思いを知りました」
頷いて微笑んだ。
「そ、そんな事お店で言っても良いの?」
明らかに声を震わせた南ちゃんにそう聞かれ、
「別に問題ないですよ。うちはホストクラブでも無いですし」
と返す。
「そうそう。うちはただのバーだからね、恋愛自由」
いつのまにか俺の隣にやって来た店長が俺の肩を組んで言う。
「店長、肩重いですよ」
と店長の腕を肩から退けながら言う。
「良いじゃねぇか、この色男。聞いたぞ、思い人は美少女だってな」
ヒヒヒと笑った店長。
誰だ、店長のそんなこと言ったのは。
店内を見渡して慧と目が合った。
やっぱりお前かよ。
まったく、余計なことを。