世界できっと、キミだけが


私が普通に暮らしていても、触れることなんてなかったものばかりだ。



「お父さん……」



でも。
薄っぺらい煎餅みたいな布団が恋しい。
味の薄い節約料理が懐かしい。
着るものだって安物のセール品で、靴だって擦り切れるくらいギリギリまで履き潰した。
そんな私の当たり前の日々が恋しい。

お父さんの側が、恋しいのだ。



お父さん、なにしてるかな。
ちゃんと、ご飯食べてるかな。
借金なくなったし、少しはいいもの食べてたらいいけど。

もうお人好しに誰かの借金を肩代わりしないで、ちゃんと自分の幸せにお金を使ってほしい。



いつだってお父さんは笑ってて。
ヘラヘラと人のよさそうな笑顔を浮かべて。
「おかえり」って私を迎えてくれる。

ここのお父さんみたいに厳しくて、眉間にしわを寄せて優しい言葉の一つもかけてくれないような人とは違う。



優しくて、温かくて、お人よしなお父さん。




ああ、帰りたいな。



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