ウルフの恋に溺れて。
「おじさん、何やってんの?」
目の前で、聞き覚えのある声がした。
「真田…くん!」
真田くんは、私の腕を引っ張って、自分のほうにやる。
「この人、痴漢です!」
真田くんがそう叫んだ瞬間、周りがざわつき始めた。
男は慌てて私たちから離れる。
そしてちょうど駅について、扉が開くと、男は走って逃げていった。
私は安心したのか、涙を流してしまった。
また、真田くんの前で泣いてしまった。
そんなことを思いながらも、涙を止めることができなかった。
「なんで女性専用車両に乗らないんだよ。」
少し怒った声で真田くんが言ってきた。
「ごめん…なさい。」
謝ることしかできなかった。
やっぱり、真田くんって、少し怖い。
そんなことを思っていた、その時だった。
真田くんの手が、頭に伸びてきた。
叩かれる!っと、ぎゅっと目をつぶると
「まぁ、無事でよかったけど。」
優しくなでられていた。
大きな手で、包み込むように。
ポカンと口を開けていると、ハッと我に返ったように真田くんが手を離した。
その顔は、少し赤く色づいていて、胸がきゅっと締め付けられた。
なに、この気持ち。