ウルフの恋に溺れて。
「ひなの…?」
振り向かないでもわかる、大好きな人の声なんだから。
「…陸。」
「何やってんの?こんな時間に。もうとっくに学校始まってる時間だろ?」
何でもないような顔で私を見つめてくる彼を見て、心臓の音が早くなるのがわかった。
まだ、陸を諦めきれていない証拠だ。
「り、陸こそ!何してるの?こんな時間に!完璧遅刻の時間じゃん!」
私はできるだけ笑顔で、からかうように言って見せた。
「俺は寝坊したんだよ!起きたらもう学校についてなきゃいけない時間で焦ったわー(笑)」
無邪気に笑うその顔に、胸が締め付けられる。大好きな人の笑顔だ。
「なにそれ(笑)まぁ、私も似たようなもんだけど…!」
「てかなんで突っ立ってんの?急がねぇと電車来るぞ?」
腕につけた時計を見ながら、不思議そうな顔で問いただしてきた陸の言葉で、私はハッとなった。
「そうだ!定期と財布忘れちゃって…今から家に走って戻ろうかなって!」
早くここから逃げなきゃ、陸といると、忘れたい気持ちがどんどん忘れられなくなる。