常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「ま、そんなわけで、たぶん壮一郎はかわいい倅を推すはずだから」
専務にとっては社長であり「義兄」でもあるのに、未だに同期気分が抜けない。
「……どちらが『副社長』になれるかの鍵は、常務の田中だな」
大地の脳裏に、いかにも神経質そうな経理畑の顔が浮かぶ。笑っていても、決して眼鏡の奥の目は笑っていない。
……何度も会ってるけど、腹を割って話せるタイプじゃねえんだよなぁ。
「田中には娘が一人いてな」
専務の話は続く。
「あの田中が、目の中に入れても痛くないくらいかわいがっているらしい」
「へえー、まだ小学生くらい?」
……常務はオヤジたちより二、三歳下だから、かなり歳取ってからの子どもだな。あ、だからかわいいのかー。
「なに言ってる。もう二十歳越えてるさ。それどころか、うちの社員だ」
「……はぁ⁉︎」
間抜けな声が出た。
「でも、田中のヤツ、どいつが娘なのか、頑なに隠してやがるんだ。娘の方もオヤジに似たのか、特別視されたくないからって、公表したくないらしい」
専務は腕を組んだ。
「最近は、人事部の個人情報の管理が厳しくてな。常務とその娘からもうるさく口止めされてるらしくて『コンプライアンス遵守』って言って、おれでも教えてくれないんだ」
……常務の娘、どこに配属されてんだろ?
やっぱ、常務のお膝元の名古屋かな。
「だけど、生まれ育った東京から出したくないとかで、『東京エリア限定の総合職』で採用されてるってとこまでは聞けたよ」
「……とすると、丸の内の本社か?」
「……と見せかけて、おれは兜町にいるんじゃないか、と思ってる」
……えっ⁉︎ まさか、灯台下暗し⁉︎
「兜町は隠すには最適だよ。何せ、昔ながらの『株屋』の集団だからな。おれが田中だったら、絶対そうするね」
専務は不敵に笑った。
「あとは、自分で探せ」
……副社長になりたかったら。
田中常務への突破口は「愛娘」か……