常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「あの人」は後場が引けたあと、追証の入金ができなかった顧客の事務処理をするために、必要書類や伝票を揃えていた。
そして、それらをクリアファイルに入れながら、後輩の西村に告げる。
「追証の処理の件で、営業二課へ行ってきます」
「はーい、先輩、いってらっしゃーい」
西村がひらひらと手を振った。
そろそろ、厄介な事務処理の方も覚えてほしいんだけどな、と「あの人」はため息を吐く。
そして、「大奥」と呼ばれる営業事務課の、受付カウンターの横にあるゲートの手前でIDカードをかざして課の外に出た。