常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……おい、小田。一階のFA課に『田中』って名前はいるのか?」
上條課長が出先から帰ってきて、座席にPORTERのブリーフケースを置くのもそこそこに訊くため「どうしたんっすか?」と小田は訊きたかったが、余計なことを言うと特に「めんどくさい」上司なので、
「あ、いますよ……確か、田中あづさ、だったかなー」
と、すんなり答えておいた。サラリーマンの哀しい性である。
そのとき、課長の目が鋭い光を放ったような気がした。
もちろん、サラリーマンの哀しい性で、
「どうしたんっすか?」
とは訊かない。