常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「……それにしても、僕も大地も、見事に収まるとこに収まっちゃったな」

水島が突然、くくっと笑った。

「ま、僕も大地も、なんだかんだ言っても母親の実家の『朝比奈家』の意向に沿って『あさひ証券』の将来に役立つ人間になるよう育ってきたんだけれども」

二人は母親が姉妹同士の従兄弟(いとこ)である。
二人の母親はあさひ証券の創業者一族だった。
亜湖の親友の蓉子も親戚だ。

「大地とは、中学・高校は一緒だったんたけど、大学は別れようということになってね。
僕たちはKO大もW大もどちらも合格してたんだけど、僕がKO大を選んだから大地はW大に進んだ。
アメリカで経営学修士(M B A)を取った大学院のときもそうだった」

水島が当時に思いを馳せるような遠い目になる。

「同じ大学に進んだら、学閥が一つだけに偏ってしまうからね。会社のためにはいろんな人脈が必要だ」

そして、満を持して入社したあさひ証券で、二人とも来年いよいよ本社の部長となる。
さらに、本社は事業本部なので「本部長」となり、同時に「取締役」の一人として名を連ねることになる。

「大地がきみを選んでくれてよかったよ」

水島がノーブルに笑った。やはり、彼の笑顔は「王子さま」だ。

たとえ……このあとに放った彼の言葉が、どれだけ亜湖を傷つけたとしても。

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