常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「大地もやっぱり『朝比奈の血』を受け継いでいるんだな。結局、朝比奈家にとって、一番ぴったりの子を探し出して手にするんだもんな」
水島がしみじみと言う。 自分も同じだ。創業家の娘の蓉子を手にしたのだから。
「あ、あの……水島課長、先刻からなにか誤解されてるようなんですが……わたし、別に上條課長とはなにも……」
そうなのだ。亜湖はまだ大地から「好き」とも「つき合ってほしい」とも、なにも言われてないのだ。それに、名前は知ってたけれど、初めて話をしたのはたったの数日前なのだ。
しかし、水島は、恥ずかしがらなくてもいいから、と取りあってくれる気配がない。
「彼女をとっかえひっかえしていた大地にしてみれば篠原とは長かったけど。でも、大地にとっては亜湖ちゃんが運命の人だったんだね……」
と言った瞬間、水島はしまった、という顔になった。亜湖の表情の窺えない日本人形のような瞳が怖い。
「あ、違う、違う!篠原はただの同期だからっ。それに、大阪で結婚してもう人妻だからっ」
その言葉でだれを指しているのか、亜湖にはわかってしまった。
水島は自分で掘った墓穴を古墳サイズにまで拡張してしまった。