常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「課長には今回のことでいろいろ迷惑をかけたので、お詫びも兼ねて、呑みに行きませんか?」
……山田にしてはめずらしく殊勝な心がけだが。
「なぜ、今週の金曜なんだ?」
「亜湖さんがその日にしましょう、って言うんで」
大地は、亜湖さん?という顔をした。
「大奥の『あの人』っすよー」
山田が得意げに言う。
……そんなの知ってる。
「亜湖さんにもお世話になったから、誘ったんっすよ。ついでに、営業事務からも何人か来てもらうように頼んだから、合コンみたくなるかも」
私情を盛り込ませた山田はニヤけていた。
「……山田、わかってるだろうな」
大地の口から、地を這うような低い声が漏れた。
「わかってますよぉー。課長と亜湖さんはおれの奢りっしょ?」
山田は口を尖らせる。
「違うっ!!」
大地の怒髪天を突く大声が、フロア一帯を走った。
……ほーら、やっぱり、青天の霹靂がやってきた。
営業二課の連中は、頭を覆って雷から逃避した。
「おれとあいつは行かない……それから」
大地は立ち上がって、大きな手のひらで山田の顔面を掴んだ。
「おれの女の名前を気安く呼ぶなっ!!」
そして、掴んだ指にぐーっと力を込めていった。山田の両顳顬の辺りだ。
「ひいぃぃぃぃぃ……っ!?」
山田は大地のアイアンクローをまともに食らって悶絶した。
……あれ、今、課長「おれの女」って言わなかったか?それで「あいつ」って、もしかして「大奥の影の総元締め」!?
営業二課の連中は、雷が直撃したくらい震撼した。
「……ほーら、やっぱり、怪しかったじゃん」
小田だけは一人、ご満悦だった。
辺りには、まだ、山田の断末魔の叫びが響いている。
……だけど、あいつ、なぜ山田には会うのに、おれとは会わないんだ?
大地はますます腹が立って、指に力を込めた。