常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「先週、連れてきてもらったんです」

「だれに?」

大地は亜湖の方に身体(からだ)を向き直した。

そういえば、亜湖とは気持ちが通じ合ったと思い込んでいたが、実は彼女のことはなにも知らなかったことに気づいた。

例えば、亜湖に付き合っているヤツがいるかどうか、とか。父親が溺愛してるからといって、彼氏がいないとは限らない。

……彼氏がいるから、ここ数日、おれのことを避けてたのか?

大地はたまらず、ぐーっとビールを呑み干した。

「水島課長に連れてきてもらいました」

「なっ、なんでビルマが!?」

大地は呑んだビールを噴き出しそうになった。

亜湖の方は、ビルマ、と突然言われても無反応だ。小さい頃から読書好きの彼女は「ビルマの竪琴」を読破していたから、なぜ水島が「ビルマ」なのか即座にわかった。

「……蓉子さまもご一緒でしたよ」

杉山が微笑みながら、大地の空のビアグラスを下げて新しいのを置く。いつも大地のグラスが空けば、彼からほかの酒をオーダーされるまでは、ずっとビールを出すことになっている。

……そうか、蓉子もいたのか。教えてくれてありがとう。グッジョブ、杉山。

大地はホッと息をついた。心臓に悪い。

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