常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……蓉子と水島課長、くっつきましたよ」
亜湖がつぶやいた。大地はニヤッと笑って、ビールをまた一杯呑み干した。
「上條課長はどうして蓉子を狙わなかったんですか?蓉子、あんなに綺麗で性格も素直で……うちの会社のグループの創業家の娘なのに」
そういえば、同じ本店で勤務しているのに二人でいるところを見たことがない。
「蓉子はビルマのことを、ガキの頃から好きだったからな。邪魔しちゃ悪いだろ?」
大地はこともなげに答えた。
「それに、あいつが生まれたときから知ってるんだ。妹みたいにしか見られない……もしかして」
大地は亜湖の肩に手を回し、彼女の顔を覗き込んだ。
「……妬いてるのか?」
次の瞬間、大地はものすごい目で亜湖から睨まれた。
それでもひるまず、
「なぁ、ここんとこ、おれを避けてるみたいだけど……おまえになんか悪いことしたか?」
大地は亜湖の瞳を見つめて訊いた。
彼の目がとてもせつなげだったので、亜湖は思わず視線を逸らした。
「亜湖!」
大地は大きな手のひらで亜湖の両頬を包んで、自分の方へ向かせた。
杉山はいつの間にか、大地の好きなアイリッシュ・ウィスキーの「グレンダロウ」をいつでもロックで呑めるようにセットして、奥へ引っ込んでいた。店は大地が貸切にしていた。それができるから、ここに亜湖を呼んだのだ。
「亜湖……逢いたかった」
大地は甘く焦れた声で囁いた。
そして、亜湖のくちびるに、そっと自分のくちびるを重ねた。
「……ずるい」
亜湖の両目から、ぽろぽろぽろ…と大粒の涙が溢れた。