常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……上條課長」
亜湖は「大奥の総元締め」の表情と声で呼びかけた。
「ツメが甘い、って言われたこと、ありませんか?」
一世一代の言葉を言ったはずなのに、見事に亜湖にスルーされてしまった。しかも、一番呼んでほしくない「上條課長」に戻っている。
大地は呆然としてしまって、なにも言えない。
「たまに、十中八九イケると思ってた商談が、どういうわけかダメになることあるでしょう?」
亜湖は名探偵のように詰問する。
「……違いますか?」
大地は、うっ、と詰まる。
……確かにそれはあるが。
亜湖には絶対に内緒だが、実は珠紀にも言われたんだよな。
……ま、それは、おれからのプロポーズを待っていたらしい珠紀が、とうとう待てなくなって別れ話になったときだが。