常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
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大地と亜湖が部屋を出て、マンションの地下の駐車場に降り立つと、大地の車が見えた。
彼の愛車はBMWのM4クーペである。

「……ガンメタだ」

と亜湖がつぶやくと、

「ボディカラーはミネラルグレーだ」

と大地が訂正した。

亜湖は、カッコいい車だけどホイールも派手だし車高が低めだし……正直言って「ビーエム」のわりにはちょっとヤンチャな車だな、と思ったが口には出さなかった。
愛車を少年の目でキラキラ見つめる大地が、とても得意げな様子なのに、車のことをろくに知らない亜湖が水を差すわけにはいかない。

大地が助手席のドアを開け、亜湖を促す。
こういうことを照れもせずスマートにできるのは、彼の育ちの良さである。

車内はブラックのマットな革シートで、スポーティーな仕様だった。

……わっ、わたし……「彼氏」の車に乗るのね。

亜湖は座席に腰を下ろすだけなのに、なんだか緊張した。

……わっ、左ハンドルだ。運転しないのに右座席ってなんか変な感じ。

亜湖の父親はトヨタのマジェスタ、兄はレクサスのRC Fに乗っていて、右ハンドルしか馴染みがない。

しかも、大地のM4クーペのトランスミッションはマニュアルだった。亜湖はAT限定免許なので、運転できない車だ。

もっとも、教習所を出てからほとんど運転していないペーパードライバーだけれども。
事故を起こしたらいけないから、という理由で度が過ぎた過保護の父親から運転を止められているのだ。何のために免許を取得したのかわかりゃしない。だから、今の亜湖の免許証には「身分証明書」以外の役割はない。

そうこうしている内に、大地が軽やかにギアチェンジして、クラッチの操作もスムースに、M4クーペは滑るように発進した。
カーオーディオから流れる曲は、エリック・クラプトンの♪Change The Worldだ。

車を運転する男の人の姿ってベタだけど女子のツボだわ、と亜湖は思った。
大地はまっすぐ前を見て、こともなげにハンドルを操っている。亜湖は鼻筋がすっと通った彼の横顔を、さりげなく見た。

M4クーペが地下の駐車場から地上へ出た。
そのとき、西陽が一瞬、大地の目を(くら)ませた。
端正な顔がまぶしさで歪む。

その瞬間、亜湖の心臓が、ぎゅっ、と鷲掴みにされる。

……何気ない表情なのに。
ううん、むしろ崩れた表情なのに。

……胸が、ドキドキする。

    
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