常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
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焼肉屋なのにジャパニーズモダンな店内の、二人用のちょっと手狭な個室で、大地と亜湖は掘り炬燵(ゴタツ)に差し向かいで座った。天井に吊られたライトが、和紙のシェードを通して、やわらかいオレンジ色の光を照らす。

「いい店だな……ここなら、亜湖にこんなことができる」

そう言って大地は身を伸ばしてテーブルの向こうの亜湖を引き寄せ、ちゅっ、とキスした。

「……もうっ!」

亜湖は少しふくれる。お店の人にモニターで見られていたらどうするの?と思った。

大地は車で来てるし、このあと亜湖をうちまで送って行かないといけないため、焼肉なのでキンキンに冷えた生ビール!といきたいところだが、今日は黒烏龍茶だ。

亜湖には「呑めよ」と言ったが、「大地が呑まないのに呑めないよ」固辞された。
酒に滅法強い亜湖は、酔わないため、逆に呑んでも呑まなくても一緒だと言う。

「ここは、神戸牛や松坂牛なら但馬牛とか、米沢牛なら山形牛とか、高級なお肉のルーツの牛を扱ってるお店なの。ちょっと一皿がお上品に徹していて少なめだけど」

亜湖の言った通り、男同士でがっつり食べるには不向きの店だが、女子会や「特別に」親しい男女には小洒落た雰囲気がお誂え向きだ。

オーダーした肉が届いた頃、テーブルに埋め込まれたコンロに入れられた備長炭はいい感じで火が回ってきている。亜湖がトングを使って、網の上にまずは塩タンや塩ハラミなどの塩モノを並べる。

彼女は絶妙なタイミングで肉や野菜を焼いていく。そのペースに乗せられて食べていると、大地はいつものような「早食い」になっていないことに気がついた。

取り皿の肉を食べ終えると、目の前では焼き加減の完璧な肉が「育って」いた。
亜湖はまったく焦ることなく、自然に「焼肉奉行」をこなし、自分も完璧な焼き具合でちゃんと食べている。

彼女は必ず肉をコチュジャンをつけたサンチュで(くる)んで食べていた。

「こうすると、必ず野菜も摂れるでしょ?」

頬張って食べているのに、亜湖の食べ方は少しも見苦しくない。


亜湖はシメに、ご飯と玉子わかめスープをオーダーした。

「ちょっと、お行儀よくないんだけど」

そう言って、スープの中にご飯を入れた。
そして、その上に最後に残っていたカルビを軽くタレに浸してから乗せて、大地に差し出す。

食べ残った肉でもこうすると「ひつまぶし」のように、さらさらっと食べられる。

「う、美味(うま)いっ」

思わず大地が言うと、亜湖は満足げに、ふふっ、と笑った。

大地はこんなに楽しくて、なんでも美味(おい)しく食べられる女と毎日食卓を囲むのは幸せだろうな、と思った。


……亜湖のことを知れば知るほど、どんどん好きになってくな。

……やっぱり、一生、一緒にいたい。

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