常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「昨日はまったく亜湖からの連絡がないし、なんだか妙な胸騒ぎがして、急遽名古屋から帰ってきたんだっ!」
田中常務は大地を見て怒鳴った。
メタルフレームの眼鏡をかけ、いつも神経質そうな顔をした冷静沈着な田中常務からは、想像もつかないほどの激昂ぶりだ。愛娘への溺愛ぶりがひしひしと伝わってくる。
「おとうさん、『こんな時間』って言うけど、まだ外はそんなに暗くなってないよ」
今朝、母親に電話したときには父親はまだ帰ってなかったから、亜湖が外泊したことはバレていないはずだ。
「おまえ、昨日の晩からずっとうちに帰ってきてないじゃないか!?」
亜湖は父親の後ろに立っていた母親の方を見て、「おかあさんチクったでしょ!?」という顔になった。母親は「わたしはチクってないわよ!」とぶんぶん首を振る。
「……やっぱり、帰ってないんだな?」
田中常務が低ーい声で唸った。
亜湖はカマをかけられたのだ。
思わず「しまった!」という顔になる。