常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「あっ、亜湖、なっ、なんてことを……」
田中常務がそう言うのを遮って、
「それはダメだ、亜湖……勝手なことをするのは、おれが許さない」
大地が亜湖の両肩を持って、説き伏せるように言う。
……おいっ、上條っ、それはおれのセリフだっ!
「亜湖がお父さんと、ちゃんと話をしてからでないと、亜湖におれのところへ来いとは言えない」
……上條っ、おれはおまえの「お父さん」じゃないぞっ!? それから、どさくさに紛れて、亜湖への呼び捨てを連発してないかっ!?
「だって、大地……わからずやのおとうさんにいくら言っても……」
亜湖が顔を曇らせて、大地を上目遣いで見る。
今まで見たことのない「女の顔」をしていた。
……亜湖っ、なんて媚びた顔してるんだっ!
それに、だれが「わからずや」だっ!
おれは娘を持つ父親として、当然のことを言ってるだけだっ!?
「おい、おまえからも、なにか言え!」
田中常務は我が妻の方を見ると、
「大地くん……若いときの上條営業課長にそっくりねぇ」
と、うっとりしているではないか。
若かりし頃、大地の両親と亜湖の両親(ついでに慶人の両親も)あさひ証券本店に勤務していた。その頃、亜湖の母親は、当時はまだ営業課長だった大地の父親に熱を上げていたのである。
田中常務にはどちらを見ても、おもしろくないことだらけだ。