常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「とっ、とにかくっ」
田中常務は宣言した。
「私は、絶対に、認めないからなっ! 」
「「「……おとうさんっ!? 」」」
三人の声が揃った。
……上條っ、おれはおまえに「おとうさん」と呼ばれるいわれはないっ!!
「今日は急なことでしたので、もう失礼しますが、明日、また出直します」
大地がまた深々と頭を下げる。
「明日は常務が名古屋にお戻りになると思いますので、午前中に伺います」
「私は、もう君とは二度と会わないぞ」
田中常務はメタルフレームの眼鏡のブリッジをくいっと上げて、冷たく言い放つ。
「明日の朝、十時に伺わせていただきます」
都合の悪い顧客の話はろくに聞かない営業マンの習性を活かして、大地は田中常務に構うことなく告げた。
「……おとうさん」
亜湖が父親を直視する。
「もし、明日、大地に会ってくれなかったら」
日本人形のような感情の見えない瞳をしていた。
なぜか、えもいわれぬ恐怖心がせり上がってくる。
「わたし……一生、おとうさんと口きかないからね」