常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
Last Chapter
* 営業二課の上條課長 *
時刻はもうすぐ十時になる。
もうヤツが来る時間だ。
亜湖は昨日帰ってきてから、自分の部屋に引きこもって、ろくに出てこなかった。
……こんなことは初めてだ。
「……遅い反抗期って、厄介なのよねぇ」
リビングの奥のキッチンで、敦子がお茶の準備のために、お湯を沸かし始めた。
「だから、言わんこっちゃない。あなたも諒志も、亜湖を無菌状態のままにするからよ。亜湖にとっては大地くんが『初恋』なの。免疫がないぶん、暴走すると怖いわよー」
敦子は、昨日、友達と食事やショッピングに行く予定だったが、突然名古屋から夫が帰ってきて娘の騒ぎが始まったので、ドタキャンする羽目になった。その腹いせもある。
「う、うるさいっ!」
リビングのソファに座っていた田中常務は、読んでいた新聞を、大袈裟にバサッとめくった。
そのとき、インターフォンが鳴った。